社会的養護施設第三者評価結果 検索

あゆみの丘

【1】第三者評価機関名 (特非)エイジコンサーン・ジャパン
評価調査者研修修了番号 SK15192
1501C001
1401C029


【2】種別 児童心理治療施設 定員 50名
施設長氏名 白土 隆司 所在地 大阪府
URL http://hannan-fukushi.org/ayumi/
開設年月日 2002年04月01日 経営法人・設置主体 社会福祉法人阪南福祉事業会
職員数 常勤職員 37名 非常勤職員 8名
専門職員 社会福祉士 1名 保育士 9名
臨床心理士 5名 臨床発達心理士 1名
栄養士 1名 看護士 2名
施設設備の概要 (ア)居室数 個室23室 2人部屋13室 3人部屋2室 ユニット4室 (イ)設備等 医務室 静養室 遊戯室 観察室 心理検査室 相談室 工作室 
(ウ) 調理室 浴室 便所 (エ)
【3】理念・基本方針 あゆみの丘の治療・支援理念は以下のとおりである。

私たちは、まず、一人ひとりの子どもが備えている、みずから「生きようとする力」、「強くなろうとする力」、「高まろうとする力」、「つながろうとする力」、「変わろうとする力」などを信じます。
そして、そのような「力」が日々の生活にうまく活かされるよう、広く効果が確かめられている、いくつかの手段・手法を用いて、たゆまぬ働きかけを行います。
すべてのスタッフがみな同じ気持ちになり、両親やきょうだい、また、あらゆるつながりのある人たちと共に、子どもに寄り添いながら、それぞれの“最善の利益”に適った目標をさだめ、その達成をめざし、着実に支援を重ねていきます。
【4】施設の特徴的な取組 あゆみの丘の福祉サービスの特徴的な取組みとしては、身体的・心理的・性的虐待等で心理的困難や苦しみを抱え日常生活に生きにくさを感じた、心理治療が必要な子供に対して、自立した「あたりまえの生活」をするための社会スキルを身に着けるトレーニングを実施していることである。

このトレーニングにおいては、全米最大の児童福祉団体として名声の高い「BOYS TOWN」が開発した182の社会スキルの予防的教育プログラム(コモンセンス・ペアレンティングプログラム、以下「CSP」という)を日本の制度に適合するように改良を加え、更にマーケティング及び統計的手法を駆使し、平成19年よりこれを本格導入している。

注)「BOYS TOWN」創設者のエドワード・ジョゼフ・フラナガン(通称:フラナガン神父)は、第二次世界大戦敗戦直後にGHQ連合国軍マッカーサー最高司令官の顧問として来日し、GHQ占領下で成立した児童福祉法(昭和22年)や赤い羽根共同募金運動の開始(昭和22年)等、今日の日本における社会福祉事業の制度設計に多大なる貢献をした人物として知られている。

あゆみの丘は、「BOYS TOWN」によって開発され、かつ欧米各国で実証されたこの予防的プログラムを職員に習得させるため及びその質の維持向上を図るため、当該団体のトレーニングスタッフを毎年春秋の2回、当該施設に招致し、職員研修を定期実施している。
現在、職員のほぼ全員が上級資格を含む当該プログラム認定資格者である。
注)子供に対する182項目の社会スキル教育を解説したテキスト版と「幼児編」と「学齢期編」に編集された合計3冊の日本語翻訳テキストを使用している(監修者:あゆみの丘副施設長)。

あゆみの丘は、さらに米国NPO法人「Committee for Children」によって開発された、暴力を介さず子供が加害者にならないよう問題解決を図ることを目的とする予防的プログラム(セカンドステッププログラム、以下「SSP」という)を併用することで、子供自らが、怒りや衝動をコントロールできるよう、対人関係における基礎的な問題解決能力を身に着けることに成功している。

あゆみの丘では、これらCSPとSSPの2つのプログラムを支柱として、子供に対する社会スキルトレーニングを実施しているが、特記すべきは、子供の学力向上(5教科)のために、CSP研修を受講した学習塾講師によって、きめの細かい配慮と行き届いた教育サービスが提供され、その学習環境が充実されていることである。
さらには、社会に出てからの子供のより良い暮らし実現のために、子供の家庭環境、性格、社会スキルの習熟度、心理治療、学力等を総合的に勘案し、対人関係が要求されるサービス産業への就職機会を担う普通高等学校進学の他、対人関係が不得意な子供には、技術系高等学校への就学支援や就業支援を目指す等、施設開設以来蓄積された検証結果と改善・見直しに裏付けられた出口戦略に基づき、充実したサポート体制を整えている。
【5】第三者評価の受審状況 2017年12月26日(契約日)~ 2018年03月29日(評価結果確定日)
受審回数 1回 前回の受審時期 平成26年度
【6】総評 ◆施設概要等
あゆみの丘の経営母体である社会福祉法人阪南福祉事業会は、昭和8年に司法省より認可を受け少年保護事業を開始したことに遡る。昭和47年、平成17年の2度にわたり、天皇陛下から「御下賜金拝受」の栄誉を賜っている。
現在、当該社会福祉法人は、あゆみの丘の他に児童養護施設(2施設)、保育施設(4施設)を経営しており、あゆみの丘施設内には児童家庭支援センター岸和田が併設され、施設長及び副施設長がこれを兼務している。
あゆみの丘は、平成14年の施設開設以来、その経験とノウハウによるきめ細かな手厚い福祉サービスを人権享有主体である子供に提供している。
注)子ども人権条約(平成6年批准)及び改正児童福祉法(平28年)に子供の人権享有主体性が明記されている。

子供の家庭への再統合支援はもとより、子供が大人になって自立できるよう、社会に出てからの望ましい将来的ライフサイクルを見通した支援を行うとともに、育てられる側であった子供が親となり、今度は子供を育てる側になっていくという世代をつないで繰り返される虐待や貧困の世代間連鎖を断ち切り、もって子どもが将来納税者として自立できるよう質の高い福祉サービスを提供し、わが国の「子供の最善の利益」を目指す社会的養護政策がより一層進展するための牽引を担っている。


◆特に評価の高い点
①「あたりまえの生活」の保障に向けた4つの重点項目
あゆみの丘では、施設開設以来蓄積された経験・ノウハウに基づき、以下の4つの重点項目を掲げ、入所児童が高校へ就学し、厳しい現実の実社会に出ても最低3年間就業出来る力・自立した家庭生活を身につける力のより一層の獲得機会を提供すべく、子供の「あたりまえの生活」の保障に向けた支援を実施している。

(1) 前もって適切な行動を教えること
<182の社会スキルによる予防的教育法>

(2) 意図された承認をすること
<効果的なほめ方>

(3) 問題を正し、自分をコントロールすること
<代替行動の学びと定着>

(4) 学力向上
<中堅技術高校への合格>


②PDCAによる福祉サービスの改善・見直しの実施
施設職員は、総じて職業人としての倫理感、士気が高く、毎日朝と昼に実施されるミーティングを通じてOJT(On-the-Job Training)が行われ、スーパービジョン体制を確立している。施設内コンピューターネットワークを活用し、入所児童に日々提供されている福祉サービスを関連法規、諸規定、マニュアル及び「自立支援計画」等に照らし合わせ、その進捗状況の把握、評価、改善を行い、組織全体として情報共有・水平展開を推進している。適宜「自立支援計画」を更新し、いわゆる福祉サービスのPDCAサイクルが機能している。


◆改善が求められる点
①中長期事業計画の策定
平成24年に厚生労働省は、情緒障害児短期治療施設運営指針を規定したが、この運営指針が示す中長期事業計画は、社会福祉法人としては策定されていない。
しかしながら、あゆみの丘施設開設から15年目を迎えた平成28年度あゆみの丘事業計画では、生活支援業務を担当する職員からの提案を集約し、幹部職員を交えて検討した以下4つの中長期目標が示されており、実質的には、中長期事業計画の策定に向けた準備作業はほぼ完了していると評価できる。

1.「大人が子供に適切にかかわる技術」についての啓発
2. 体験拡大・学力の向上と成功モデルのパッケージ化
3. リービングケア・アフターケアへの形づくり(ファミリーホームの開設に向けて)
4. トラウマに特化した診療治療の実施

単年度事業計画との関連性を踏まえた中長期事業計画を策定し、その対象範囲を地域社会へのさらなる貢献へと広げ、確実に周知・実行されることが求められる。

特に、(1)大人が子供に適切にかかわる技術(2)成功モデルのパッケージ化の中長期事業計画策定にあたっては、子供が大人への成長過程であることから、子供の自己決定権にはとりわけ配慮し、いわゆるパターナリズムと子供の自己決定権との法的課題に踏み込んだ内容を期待する。憲法、子供人権条約、児童福祉法、児童虐待防止法、国内児童虐待事例研究、同判例研究等の法的観点から日々施設内で運用されているCSP及びSSPとの関連性を浮き彫りにし、あゆみの丘独自の成功モデルのパッケージ化として整備されることを期待する。
注)パターナリズムとは、強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益だとして、本人の意思を問わずに介入、干渉、支援することをいう。

②子どもや保護者等に対する事業計画の周知・理解の促進
子どもや保護者等に対する事業計画の周知・理解を促すべく事業計画の主な内容を分かりやすく説明し、且つ配布、掲示等に努めることが求められる。

③福祉人材の確保・育成計画の整備
中長期計画に基づく、人材の確保・育成方針の確立と実施が求められる。

④人事管理体制の整備
客観的人事考課基準の作成とこれに基づく、職員の専門性や職務遂行能力に応じた成果・貢献度を評価、分析する仕組みの構築が求められる。

⑤地域との交流・地域貢献
子どもとの地域との交流を広げるための取組やボランティア等の受入れに対する体制の確立が求められる。

⑥被措置児童等の届出・通知制度に関する対応整備
被措置児童等の届出・通知制度に関する対応マニュアルの整備・子ども等への周知・研修会の実施による、一層の対応整備が求められる。
【7】第三者評価結果に対する施設のコメント 今回の受審で得られた最大の果実は、当施設の「強み」と「弱み」を、より具体に意識化できたことだと思っており、感謝しています。法人はじめ全職員が、この評価結果の真の意味を読み取り、“いま、我々がなすべきこと”を共有し、実行していけるよう努めたいと考えています。
前回の受審で改善すべき事項として挙げられていたにもかかわらず、今回重ねて指摘されたものがいくつかあります。なかでも中長期計画の策定を先送りしてきたことは、たいへん遺憾で、これに関しては、次年度の最優先課題として、法人をあげ急ピッチで作業を進めていきたいと考えています。
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